手術直前のX線検査(医療機関向け)

・ 「2mm切開ばね指手術」の前にX線撮影を行います。
・ 解剖学的にA1腱鞘はMP関節に接しているのでX線写真は非常に有用です。
・ 指別に撮影方法が異なりますので、当院の方法を紹介します。




◎ 鋼線マークの貼付

患者さんに指を軽く屈伸してもらいながら注意深く触診するとA1腱鞘の遠位入口部を触れることができます。ここに鋼線マークを貼付てX線検査をします。ここが皮切の予測部位であり、腱鞘切開の開始点(S)となりますので、X線写真のMP関節と一致していることを確認します。
実際に皮膚を切開する際はにエコーでA1腱鞘を観察するので、X線とのダブルチェックとなります。

実際の手順について示します。
先ず、皮切の予測部位に油性ペンで印を付け、そこに鋼線マークをテープ止めします

X線写真を観察し、鋼線マークの位置がMP関節と一致していない場合にはエコー検査の結果を加味して皮切の位置を修正することもできます。

手術ではA1腱鞘の遠位入口部にガイド・ナイフをさしこんで中枢に向けて腱鞘を切開します。

蛇足ですがA1腱鞘の遠位入口部は触診で触れることが出来るのに対して、近位入口部は触れることが出来ません。この解剖学的な特徴を最大限に活用した術式と言えます。

また図のようにA1腱鞘が2つに分かれている場合があるので注意が必要です。

 A1腱鞘を含む全腱鞘(中指)の説明は A1腱鞘とA2腱鞘 です。
  母指のA1腱鞘の解説は 簡単な解剖学(母指) です。
  中指のA1腱鞘の解説は 簡単な解剖学(中指) です。




◎ 中指のX線撮影(示指・環指・小指も同様)

当院では示指・中指・環指・小指の場合、手のひらを上向きでX線撮影します。

その際に手のひらが水平になるよう傾斜角15°のX線透過性スポンジを下に敷いて、傾き調整します。

手のひらが下向きの撮影では、皮膚がよじれて金属マーカーの位置が変わることがあるので注意が必要です。
手術症例 #1463 の環指のカラー写真(左)とX線写真(右)です。

手のひらの油性ペン印とX線写真の鋼線マークが一致します。

X線写真が皮切の位置決めで非常に役に立ちます。


◎ 母指のX線撮影

母指の場合は上と同じ撮影では、手術に役立つX線写真が撮影できません。

当院では傾斜角が45°のX線透過性のスポンジを利用して検査を行っています。

手のひらを45°傾けることで、母指MP関節を真上から見たX線写真が撮影できます。
右は実際のカラー写真(左)とそのX線写真(右)です。




◎ 手のひらの触診のコツ

鋼線マークを正しい位置に貼付することが手術成功のカギとなります。
ここではA1腱鞘の遠位入口部を見つけ出す際の、触診のコツについて述べます。




(1)中指の場合(示指・環指・小指も同様)
術者は自分の母指で、患指の手掌指節皮線を触診しながらゆっくりと指の屈伸をしてもらいます。その際、腱の結節(コブ)が指の屈伸とシンクロして動くのを観察できます。指の屈伸を続けてもらいながら、術者は触診の位置を近位方向へ少しづつずらすと、結節の動きが触れなくなる境界線がわかります。この位置がA1腱鞘の遠位入口部です。

A1腱鞘が肥厚している場合は、遠位入口部が「段差」として容易に判別できます。またA1腱鞘ガングリオンでも同様です。
 
 
(2)母指の場合
母指の場合、患者さんに母指と示指で輪を作り指先に力を込めてもらいます(Thumb Pinch)。
この状態で、術者は自分の母指(または示指)で腱に沿って触診すると、遠位入口部の予測が可能です。
 





◎ 鋼線マークの製作

鋼線マークはバネを切断加工して作ります。

私は市販されている直径5mmの円形バネ、RICH社製「ロングバネNO.1」をニッパーで切断して作ります。
 
写真は、出来上がったX線マークです。

X線マーク散逸しないように太めの軟鋼線に通して管理します。




◎ X線透過性スポンジ

X線透過性スポンジ(母指用)は、二等辺三角錐のものが市販されています。そのままでは大きすぎますので写真の大きさに縮小して使います。




All rights reserved   Yumoto ORTHO CLINIC 2014