《解説》 母指ばね指


母指ばね指は症状が多彩で、病期により症状が変化します。

ばね指の症状と解剖学を関連づけるために、「母指ばね指の分類(湯本2014)」を提唱します。
  【注】 この分類(図譜)は解剖学に忠実に基づいてはおらず、臨床症状を説明するための便宜的な分類です。

◇日本手外科学会のパンフレット
ばね指について、非常に分かりやすいパンフレットを日本手外科学会で配布しています。原本pdf はこのリンクでご覧いただけます。


(1) 母指ばね指の結節Dと結節Pについて


 ◇ 術中エコーで腱の動きを視覚化し、ばね指の発生メカニズムを解明します。
 ◇ またエコーを用いることでばね指手術が安全・確実となる利点もあります。

 ◇ 母指には屈筋腱が1本あり、長母指屈筋腱と呼ばれます。

 ◇ 屈筋腱に結節D結節Pの両方ある場合、筆者は「b型母指ばね指」と名付けました。

 ◇ 代表的な「b型母指ばね指」の映像により、ばね指の理解が深まります

母指ばね指、右(#2143)
母指ばね指、右(#2060)
母指ばね指、右(#2063)
母指ばね指、右(#2088)
母指ばね指、右(#2057)
母指ばね指、左(#2053)
教育的ビデオ、ばね指の理解が深まる
両結節D+Pがある典型的なb型ばね指
家族が手術見学、足利市より
手術直前エコーで両結節D、Pを認める
結節D&Pをエコーで描画、注射歴あり
4週前に結節D&Pをエコー検査済み

○ ばね指の症状と原因
1)A1腱鞘 (靭帯性腱鞘) のトンネルの中を屈筋腱が行き来しています。
2)両者の間に炎症が起きて指の付け根に痛みなどが出現した状態が腱鞘炎です。さらに進行するとばね現象が出現して「ばね指」を発症します。
○ 病態
手の使いすぎでA1腱鞘や腱が肥厚したり肥大すると通過障害がさらに悪化します。
○ 治療
保存治療、注射治療および手術療法(右図)があります。


◇簡単な解剖学(母指)

母指(掌側)の腱鞘は3つあり、中枢より順にA1、Y及びA2(図には省略)と命名されています。
腱の通過障害に関係するのはA1腱鞘だけであり、Y腱鞘では通過障害は起こりません。
長母指屈筋腱は末節骨に付着し、母指IP関節を曲げる作用があります。

○ 長母指屈筋腱の結節を独自に命名しました(湯本2004)。
結節D(真性結節)  最初に出来る結節で、A1とYの間に出現する。
Distal=末梢(英)、A1腱鞘の末梢の意味
結節P(二次結節)  結節Dよりも遅れてA1の反対側に出現する。発生機序として、屈筋腱が浮腫で太くなりA1腱鞘の締めつけにより発生したと考えられる。
Proximal=中枢側(英)、A1腱鞘の中枢側の意味
結節N 小児ばね指に限定した名称で、結節Pと同じ場所に出現する。
Nodule=結節(英)
A1腱鞘の入口部
A1腱鞘の両側の入口はそれぞれ「近位入口部」と「遠位入口部」と呼ばれます。

【参考】 名称の由来
A1腱鞘 A=Anular(輪状の)
Y 外見上、Y形をしているため
IP関節 IP=InterPhalangeal(指節間)
MP関節 MP=Metacarpo-Phalangeal(中手指節間)


◇ばね指の一般症状

一般的に、ばね指の症状は次の2つに大別されます。
1)外観所見 => 弾発、ロッキングなど
   [病 態] A1腱鞘(トンネル構造)における結節D、結節Pの通過障害
2)自覚所見 => 手指の痛みと腫れ、肩こり、自律神経の不調など
   [病 態] 腱が滑膜炎(腱鞘炎)でむくむこと

つまり、ばね指の症状は腱の「通過障害」と「滑膜炎」です。
症状は日内変動があり、また病期によっても変化します。
腱は滑膜炎のために夜間~明け方に太く腫大して、起床時に最も通過障害(弾発など)が強くなります。
朝の起きがけに指の曲げ伸ばしをしばらく行うと、腱の腫脹(むくみ)が軽減して通過障害が軽くなります。
軽症のばね指では日中には症状がほとんど消える場合もあります。
手術でA1腱鞘を切開して腱の通過障害を解消すると、滑膜炎も治癒に向かいます。


◇弾発のメカニズム

○ a型ばね指で弾発現象について説明します。
1) 指の伸展
母指のIP関節を伸ばしたとき、結節はA1腱鞘から少し離れた場所に移動します。

2) やや屈曲
IP関節を屈曲すると結節はA1腱鞘の遠位入口部まで移動しますが、結節の方が太いため簡単にはA1腱鞘を簡単には通り抜けられません。

3) 最大に屈曲
さらに力強く指を曲げ続けると、結節はある時点で突然にA1腱鞘を通り抜けて近位入口部から飛び出します。このときIP関節が勢いよく曲がる動きが弾発現象です。

またこの状態から指を平らに戻す場合、結節は近位入口部に引っかかり、簡単にはA1腱鞘を通り抜けることができません。


◇母指ばね指の分類(湯本2014)

母指ばね指を結節の位置により3型に分類しました。       【注】この分類は、今後変わる可能性もあります。
(1) a型ばね指 結節Dによる
 症状によりGrade1~3に細分されます。
Grade1: 弾発型
結節DがA1腱鞘を通過する際に弾発する。
Grade2: 伸展拘縮型
結節DがA1腱鞘を通過出来ず、局所麻酔をすると出来る(弾発が現れる)。
Grade 3: ロッキング型
指を深く曲げると自力で伸ばせない。
(2) b型ばね指  結節Dと結節Pによる
・ 指の曲げと伸ばしの両方向の通過障害。
・ a型、c型に比べて症状が多彩で、また安静時の痛みが強い傾向がある。
(3) c型ばね指  結節Pによる
・ c型は全体の22%を占め先天性素因があり、またb型の亜型の可能性もある。
・ 指は曲がりますが、結節PがA1腱鞘を通れず指が平らに伸びないので「屈曲拘縮型」と呼ばれる。
・ 局所麻酔をすると結節PがA1腱鞘を通過して指が伸びる場合もある。
(4) 小児ばね指 結節Nによる
小児ばね指の結節Nの位置はc型の結節Pと同じ。
・ c型よりも結節は大きく、A1腱鞘を通り抜けられずIP関節は曲がっている。
・ 乳児がよく手を使う年齢(1才過ぎ)になって家族が気がつく場合が最も多く、握り母指の別名もある。

<参考>型分類の頻度(最近の160症例を抽出)


◇映像による術前、術後の比較 -型分類別-

2mm切開ばね指手術では皮膚切開が小さいのみならず、皮下組織や滑液鞘(滑膜)の損傷も極わずかです。また皮膚縫合はありませんので手術翌日から機能訓練ができて、非常に早い回復が見込まれます。
術後の早期の回復状況を実際のビデオでご覧いただけます。
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◇内視鏡手術の適応について (a型ばね指の亜型分類)

・ もともと内視鏡による母指のばね指手術は、神経・血管損傷の危険があり適応外と考えられています。
とりわけb型とc型はIP関節が伸びないので内視鏡を皮下に通すことができません。

・ a型ばね指の亜型分類は、内視鏡手術の可否を決めるための分類で、それ以外の意味はありません。

母指MP関節が平よりも背屈出来るか否かを基準にしてa型ばね指をa-1型とa-2型に分類します。
 a-1型
  MP関節が平ら以上に伸びない
 a-2型
  MP関節が平ら以上に伸びる

「a-1型」は内視鏡手術の適応はありません

内視鏡手術が可能な「a-2型」は臨床上、数は多くありません。





結論的として、ほとんどの母指ばね指は内視鏡手術の適応外と考えられます。


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