小児のばね指手術


小児の場合も「2mm切開ばね指手術」ができます。局所麻酔による外来手術です。
保護者には手術の際に患者さんの横に付き添っていただき、小児が安心できる環境で手術を行います。

◇ 小児ばね指手術と局所麻酔
小児の場合、手術の成否のカギは患者さんが心を許して局所麻酔を受け入れてくれるかどうかです。

私は、小児が自然な形で局所麻酔の注射を受け入れる信頼関係を築くことに全勢力を注ぎます。もし小児が注射をためらった場合には無理強いをせず、本人の気持ちの整理がつくまでゆっくりと待ちます。

私はなるべく話しかけながら注射を行いますが、付き添い家族による話しかけや励ましも欠かせません。

ひとたび本人が納得して注射を受け入れてくれれば、その後の手術操作は痛みが出ませんので(指の曲げ伸ばしなどの)手術協力も得られます。最後に自力で指の曲げ伸ばしをして可動域が回復したことを確認して手術は終了となります。
   
◇ 手術手順について
局所麻酔
A1腱鞘の皮下に27G注射針で1%キシロカイン2.5mlを注射しますが、針を刺すのは1回だけです。この際、薬剤アレルギーに対して特に注意を払うようにしています。

手術操作
成人の場合と同じく皮膚切開の大きさは1~2mmです。A1腱鞘を真ん中で切開して結節Nがスムーズに通れるようにします。
小児の場合、上腕の圧迫駆血(止血)は行いません


◇ 実際の手術映像
  
小児のばね指手術を5症例、供覧します。局所麻酔の様子も映像に含まれます。
     症例1:右母指、5才、女児(再掲)
     症例2:右中指、3才、男児
     症例3:右母指、7才、男児
     症例4:左母指、6才、女児
     症例5:右母指、6才、女児(上腕に巻いた駆血帯で止血を行った症例です)

  簡単な説明を別ウィンドウで開いたまま映像をご覧いただけます。

  5才女児 3才男児 7才男児 6才女児 6才女児

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説明を箇条書きにしたもので、内容は上と同じです。

症例1:右母指、5才、女児
  • 手術には母親が付き添い、子供さんが心細くならないように話しかけています。父親と弟(乳児)は別室で待機していました。
  • 患者さんの緊張を和らげようと術者もなるべく話しかけています。5才で就学前にもかかわらず麻酔注射をガマンしてくれました。 無事に注射が済んだあとは手術はほぼ一本道です。上腕での駆血は行わないため、わずかに出血があります。また腱鞘は柔らかく切開音はほとんど聞こえません。
  • 4ヶ月半後に左母指のばね指手術(症例4)で来院の際、右手でピアノが弾けるまでに回復したと母親から報告がありました。
症例2:右中指、3才11ヶ月、男児
  • 母親が手術ベッドの脇に付き添い、父親は手術見学をしながら子供さんを励ましています。妹(乳児)は父親のだっこ紐に深く抱かれてぐっすり睡眠中で手術は見学していません...。
  • 小児には珍しい中指のばね指でPIP関節が平らに伸びず、じゃんけんの際に痛みが出るので「パー」に指を広げられません。
  • 麻酔をしながら患者さんから話を聞き出すことができて、これから始まる手術を受け入れてくれた様子がうかがえました。そして手術中も指示通りに指の曲げ伸ばしをして見せてくれてスムーズな進行となりました。
  • また腱鞘切開に際して比較的大きな切開音が聞こえます。
症例3:右母指、7才、小学2年男児
  • 母親が手術ベッドの脇に付き添いました。
  • 患者さんは適切な状況判断ができる小学2年生です。不安を与えないように看護師が気を利かせて注射器を隠すところを目敏く見つけて指摘するほど冷静でした。
  • 主に聞こえるビデオ音声は...
  • (1)患者さんの雄弁な声
  • (2)看護師の声:手術の進行役
  • (3)母親の声:時々諫めている
  • (4)術者の声:会話においては影が薄い...
  • 術後経過 1)手術翌日、2)術後8日のビデオです。
症例4:左母指ばね指、6才女児
  • 症例1と同じ女児。手術室で母親は子供さんの右側に付き添っています。
  • 前回の手術に比べて患者さんは緊張ぎみでやや寡黙でしたが「ガマン」して注射の関門をクリアーしました。また手術中も非常に協力的に指の曲げ伸ばしをしてくれました。
  • 術中エコーによる切開刀の位置確認で1回目はガイド部が腱鞘から外れましたが再試行で正しくセットされて手術は無事に終了しました。
  • 手術が済んだ頃からようやく本来の「笑顔」が戻り、右母指の術後ビデオを撮影させてくれました。。
  • エコー検査の重要性を再認識しました。
症例5:右母指、6才4ヶ月、女児
  • 予め上腕で駆血をする練習をして手術に臨んでいます。本人の心の準備がない段階で、いきなり駆血帯で圧迫止血すると患者さんに不安を与えると考えたからです。
  • 当院にエコー装置が導入される前の2009年5月の手術です。
  • 父親が手術ベッド右脇に付き添って子供さんに話しかけてくれました。手術中にゆっくりと60までカウントするようにお願いした理由は、1カウントに3秒かけると3分間の時間を稼げると考えたからです。
  • カウントはいつの間にか自然消滅しましたが、途中から患者さんの緊張がほぐれて指の曲げ伸ばしなどで手術に協力してくれました。実質的な駆血時間は4分間です。
  • 術後経過 1)術後2日 2)術後9日のビデオです。

小児ばね指手術の感想
  • 手術の最大の関門は、患者さんが納得して麻酔の注射を受け入れてくれるか否かです。これを乗り越えれば後の操作は痛くありませんので患者さんの手術協力が得られます。
  • 私は小児を「子供扱い」せずに「小さな大人」として対応するように心がけています。言葉の始まった小児には「自尊心」が芽生えています。小児を「子供扱い」するとその自尊心を傷付けてしまい注射を受け入れてもらえないからです。
  • 小児では麻酔注射のアレルギーが潜在している可能性があり細心の注意を払うように心がけています。
  • 手術を通して、小児はそれぞれが豊かな個性を持っていることにあらためて気づかされました。
  • 当院の手術方法は入院して全身麻酔で行う手術とは違い、本人、家族ともに心理的な負担の軽い手術です。その意味からも「2mm切開ばね指手術」が広く普及するまで当ホームページを通じて啓蒙活動を続けるつもりです。

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